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キーマン採用は求人票の前に、90日の仕事を1枚に書く——面接と内定前の確認の順序

キーマン採用は求人票の前に、90日の仕事を1枚に書く——面接と内定前の確認の順序

「次の部長は外から採ろう」と決めて、人材紹介会社に依頼を出したとします。伝えた条件は、同じ業界での経験と、10年以上のマネジメント経験、それに年収の上限です。数週間で推薦が届き、経歴の立派な候補者と面接を重ね、最後に社長が会って「この人なら任せられる」と決めました。ところが入社から半年ほどたつと、社長は「思っていたのと違う」と感じ始め、本人のほうも「聞いていた話と違う」と感じています。

どちらの言い分も、おそらく間違ってはいません。社長が思い描いていた仕事と、本人が聞いたつもりの仕事は、どこにも書かれていなかったからです。書かれていないものは、面接を何回重ねても突き合わせようがありません。

キーマン採用で「ハマる人材を採りたい」と言うとき、指しているのは人の種類ではありません。会社がその人に任せる具体的な仕事と、その人の仕事の進め方が噛み合うかどうかです。だとすると、見極めは候補者に会う前、任せる仕事を書くところから始まります。

採ったあとに権限や情報が渡らず、幹部が機能しなくなる構造は、幹部を採っても経営は動かない——外部から来た右腕が機能しない3つの構造にまとめました。そこで起きることのうち、任せる範囲と受け入れの準備にかかわる部分は、求人票を書く前から内定を出すまでの順序で先回りできます。

第1章 キーマン採用で「思っていたのと違う」が起きる理由

経歴は、前の会社の環境ごと出した成果です

管理職を中途で採る会社が経歴に期待するのは、まず即戦力です。厚生労働省の令和7年転職者実態調査では、「管理的な仕事」に転職者を採用した事業所の60.7%が、採用した理由に「経験を活かし即戦力になるから」を挙げていて、選択肢の中で最も多い答えでした(3つまでの複数回答)。

職務経歴書には、前職で売上を伸ばした、組織を倍にした、といった実績が並びます。ただ、その成果は、前の会社の知名度や予算、部下の人数、使えた仕組み、本人に与えられていた決裁の範囲と一緒に出たものです。

自社にその環境の一部しかなければ、同じ成果が出るとは限りません。経歴を深掘りしても分かるのは過去の事実までで、自社で再現するかを見るには、自社で何をしてもらうのかが先に要ります。

基準がないまま面接すると、面接官の数だけ基準ができます

同じ調査の令和2年の回では、転職者を採用した事業所の84.1%が採用時に問題があると答え、その中身(複数回答)は、必要な職種に応募してくる人が少ないこと(67.2%)に次いで、応募者の能力評価に関する客観的な基準がないことが38.8%でした。38.8%は問題があると答えた事業所の中での割合で、転職者を採用した事業所全体に引き直すと3割強(84.1%×38.8%の概算)になります。管理職に限った数字ではありません。

任せる仕事が書かれていないと、面接官はそれぞれが思い描く部長像で候補者を見ます。現場の責任者は一緒に働きやすいかを、人事は条件が折り合うかを、社長は自分と話が合うかを見がちです。どれも必要な視点ですが、同じものを見ていません。

分岐点は、候補者に会う前にあります

任せる仕事を書いてから候補者に会うか、会いながら考えるか。会いながら考えると、要件は目の前の候補者に引っ張られます。経歴の華やかな人に会えばその経歴に合わせて任せる範囲を広げたくなり、話しやすい人に会えば足りない経験を大目に見たくなります。先に書いておけば、候補者どうしを比べる物差しが、会う前に決まります。

先に決めておく会社のほうがうまくいっている傾向は、統計にも小さいながら表れています。中小企業庁の2026年版中小企業白書は、経営課題の解決に必要な人材像(経験やスキル、価値観など)を明確にできているかで事業者を分けて比べています。2019年以降の採用で予定人数に届いた割合は、できている事業者で45.7%、できていない事業者で40.9%でした。その間に採った従業員の7割以上がいまも働き続けている事業者の割合は、50.3%と41.9%です。どちらも管理職に限った数字ではなく(定着の集計でいう従業員は正社員とパート・アルバイト)、差も5〜8ポイントほどで、白書自身も「可能性が示唆される」という書き方にとどめています。

ただ、白書が尋ねたのは人材像を明確にしているかで、任せる仕事まで書いているかではありません。先に言葉にしておく側に分がある、という向きを示す材料として読むのが妥当です。

いまの採用が「会いながら考える」側に寄っていないかは、3つの問いで見分けられます。紹介会社に渡した依頼が、経歴と年収の条件だけになっていないか。何を見て点を付けるかを、面接の前に文で決めてあるか。採った人が入社して最初の週に何をするかを、社長以外の誰かが答えられるか。1つでも詰まるなら、要件は候補者に会いながら作られています。

第2章 求人票の前に、入社後90日の仕事を1枚に書く

役職名ではなく、終わらせる仕事を書く

「営業部長。営業組織のマネジメント全般」と書いても、何を任せるのかは伝わりません。マネジメント全般の中身は、人によって違うからです。書くのは、入社してから90日で終わらせてほしい仕事です。

営業部長であれば、例えば次のように書きます。

  1. 既存顧客の上位20社に前任者か社長と同行し、担当を引き継ぐ
  2. 直近1年の失注案件を理由別に分け、値引きの判断基準の案を出す
  3. 週1回の営業会議の議題と、会議で見る数字の様式を決め、自分で進行する

90日で区切るのは、その長さなら入社前に具体的に書けるからです。1年分の仕事は書けたとしても途中で変わりますが、90日先までなら、会社の側にも何が必要かが見えています。

1枚に入れる6つの項目

この1枚を、ここでは「成果の定義書」と呼びます。A4に収め、項目は6つです。

  1. 入社後90日で終わらせる仕事(3つまで)
  2. 1年後に数字で確かめる成果(1つか2つ)
  3. 任せる決裁の範囲(入社した時点と、90日後)
  4. 一緒に動く人、報告先、評価する人
  5. 自社にないもの(予算、人員、仕組み、知名度など、前職にはあったかもしれないもの)
  6. 入社日までに会社が用意するもの(見せる数字、引き継ぐ資料、紹介する取引先や社員)

1から3は任せる中身、4から6はそれを支えるために会社の側が用意するものです。キーマンの要件はふつう1から3だけで書かれますが、入社後の「聞いていた話と違う」の原因は、4から6に潜んでいることが少なくありません。

同じ営業部長の想定で2から6を埋めると、たとえば次のようになります。2は「1年後に、上位20社の売上を前年並みに保ったまま、値引き率を2ポイント下げる」。3は「入社時点では1件50万円までの値引き、90日後からは年間契約の条件まで」。4は「営業課長2名と動き、社長に週1回報告し、評価は社長がする」。5は「営業の数字を週次で見る仕組みがなく、案件は担当者ごとの表で管理している」。6は「直近3年の顧客別売上、上位20社の担当者の連絡先、前任者との引き継ぎ面談の日程」。

5の「自社にないもの」は、自社の弱みを書き出すので書きにくい項目ですが、選考で使えます。いまの例なら「当社には営業の数字を週次で見る仕組みがまだありません」と伝えたうえで、それでも90日の仕事をどう進めるかを聞けば、前職の環境に頼らない進め方を持っているかどうかが分かります。

3・4・6は、採ったあとに権限と情報が渡らないという問題を、採る前に先回りして防ぐ項目でもあります。入社した時点で任せる決裁、報告を受け合う相手、入社日に見せる数字を書いておけば、受け入れる側の準備が採用と並行して進みます。決裁をどの順で渡すかは権限委譲は、渡す順序を決めれば進む——社長が最初に手放す決裁と、残す決裁で整理しています。

1枚が書けないなら、採用はまだ早い

書こうとして手が止まる会社もあります。とくに1の90日の仕事が書けないなら、何を任せたいのかが社内でまだ決まっていません。その状態で採れば、採った人が自分の仕事を自分で決めることになり、うまくいく場合もありますが、見極めというより賭けに近くなります。

経営の課題そのものが整理されていないのが理由なら、採用より先に課題の整理が来ます。整理を担う人が社内にいない場合に、その機能を外に置く型と選び方は、経営企画を外注・代行するという現実解——「機能が空席」の会社が丸投げで失敗しないための3つの型と選び方にまとめています。社内で誰もやったことのない仕事なら、正社員で採るか外部に置くかから考え直す手もあります。その費用の考え方は、経営者の右腕を外注するという選択——費用の内訳と、契約の出口をどう決めるかで扱っています。

第3章 選考は、1枚から質問を逆算して組む

全員に同じ質問をし、同じ物差しで採点する

定義書ができたら、面接の質問をそこから作ります。あらかじめ決めた質問を候補者全員に同じように聞き、決めた基準で採点する面接を、構造化面接と呼びます。

2022年に米国の心理学の学術誌に載った分析は、選考での評価が入社後の仕事ぶりとどれだけ一致するかを多くの研究から推定し直し、多くの選考方法でそれまでの推定が高すぎたと補正したうえで、構造化面接を最上位の選考方法に位置づけました。一致の度合いを示す相関(1に近いほどよく一致する)の推定値は、構造化面接が0.42、質問も基準も決めずに行う面接が0.19、職務経験の年数が0.07です。主に海外の研究の平均値で、職種や場面によって幅があり、幹部の採用に限った値でもありません。それでも、決めた質問と基準で聞く面接の相関は自由に話を聞く面接の2倍を超え、経験の年数はそれだけではほとんど何も予測しません。

質問は、定義書に書いた90日の仕事1つにつき2つ作ります。1つは過去の行動を聞く質問、もう1つは自社の状況を渡して考えてもらう質問です。営業部長の例で、担当の引き継ぎについて聞くなら、過去の行動は「前の職場で、担当顧客を短い期間で引き継いだ経験を、最初の1週間に何をしたかから順に話してください」と尋ねます。自社の状況のほうは、「上位20社のうち5社は、担当していた社員がすでに退職していて同行できません。入社して最初の1か月で、どう引き継ぎますか」と渡します。前者で分かるのはやったことがあるかどうか、後者で分かるのは、自社の条件でもやれそうかどうかです。

採点の物差しも、面接の前に文で決めておきます。5段階で採点するなら、5は「自分で判断したことと、その理由、結果の数字まで話せた」、3は「行動は話せるが、チームの成果と自分の寄与の区別がついていない」、1は「一般論で答えた」というように、点ごとの意味を書いておきます。点の意味が決まっていないと、5点は面接官の好みの言い換えになってしまいます。

採点は、面接官どうしで話す前に、各自が書いて出します。先に話し合うと、声の大きい人、多くの場合は社長の評価に、ほかの評価が寄っていきやすいからです。

経歴は、本人の寄与を切り分ける質問で確かめる

面接では、経歴のうち本人の寄与がどこにあったのかを切り分けます。聞き方は単純で、「その結果のうち、あなたがいなくても出ていたと思う部分はどこですか」「前の会社にあって、当社にはなさそうなものは何ですか」と尋ねます。

自分と環境の寄与を分けて話せる人は、自社で何が足りないかも自分で見つけやすいはずです。前職の成果をすべて自分の成果として語る答えは、採点の物差しでいえば3に当たります。

90日の仕事を縮めて、一度やってもらう

面接だけでは、話のうまさと仕事のうまさを見分けにくいものです。そこで、90日の仕事のうち1つを縮めて、課題として一度やってもらいます。営業部長なら、過去の失注案件をもとに社名や金額を置き換えて作った30件の一覧を渡し、2時間で理由を分類して、値引きの判断基準をどう組むかを説明してもらう、という形です。

課題には3つの決まりを付けます。実際の業務にそのまま使う成果物を作らせないこと。時間を区切ること。社外秘の情報を見せる場合は、先に秘密保持の約束を交わすこと。こうした課題形式の選考はワークサンプルと呼ばれ、先ほどの分析での相関の推定値は0.33と、自由に話を聞く面接の0.19を大きく上回っています。

課題の結果は、社長ではなく、採った人と一緒に働くことになる現場の責任者が評価します。社長が評価すると、面接と同じく社長の一言に評価が寄るからです。部長を採るなら、隣の部門の部長がこれに当たります。隣の部門に部長がいない会社での分け方は、第6章で触れます。

聞いてはいけない質問を、面接官全員で確かめておく

社長面接は雑談になりやすく、その流れで尊敬する人物や愛読書、家族の仕事を尋ねてしまうことがあります。厚生労働省は、適性や能力と関係のない事項を応募書類に書かせたり面接で尋ねたりすると、採用の基準にしないつもりでも結果として採否に影響し、就職差別につながるおそれがあるとして、配慮すべき14の事項を挙げています。尊敬する人物や愛読書は思想・信条にかかわる事項に、家族の職業や学歴などは本人に責任のない事項に入ります。同省によれば、令和6年度に応募者からの指摘でハローワークが把握した854件では、家族に関する質問が多くを占め、面接の空気を和らげるつもりで聞いてしまう例が多いといいます。

質問を定義書から逆算して作っておけば、雑談でこうした事項に踏み込む余地はかなり小さくなります。面接の前に、質問の一覧を面接官全員で読み合わせておきます。

選考の段階

確かめること

主に見る人

1枚の対応する項目

書類

90日の仕事に近い経験があるか

現場の責任者

1

一次面接

過去の行動と、自社の状況を渡したときの進め方

現場の責任者と人事

1・5

課題

90日の仕事を縮めたものを、実際に進められるか

一緒に働く現場の責任者

1

リファレンス

前職での本人の寄与と、仕事の進め方の事実

人事

1

社長面接(最後)

1年後の成果と任せる決裁について、認識が一致しているか

社長

2・3

第4章 内定の前に確かめること、当てにしないこと

リファレンスは、本人の同意を取ってから、仕事の事実だけを聞く

前職での働きぶりを一緒に働いた人に尋ねるリファレンスチェックには、進め方に法律上の決まりがあります。

職業安定法は、採用する会社に、応募者の個人情報は業務の目的に必要な範囲で、目的を明らかにして集めるよう定めています(第5条の5)。同法に基づく厚生労働省の指針は、本人から直接集めるか、本人の同意の下で本人以外の者から集めるなど、適法で公正な手段によるよう求めています。前の職場の上司や同僚に話を聞くのは、本人以外の者から集めることに当たります。前の勤務先の側も、人事記録のような個人データを外に出すには、原則として本人の同意が要ります(個人情報保護法第27条)。

つまりリファレンスは、誰に何を聞くのかを候補者本人に具体的に伝えて同意をもらい、照会する相手も候補者自身に挙げてもらう形で進めるのが確実です。現在の勤務先への照会は、候補者の立場を危うくしかねないので避けます。

聞くことは、仕事の事実に絞ります。担当していた範囲、本人が自分で決めていたこと、一緒に働いた期間、そして機会があればまた一緒に働きたいか。90日の仕事に近い場面があれば、そのときの動き方を具体的に聞きます。家族や私生活、思想・信条にかかわることは、照会先にも聞きません。前章で触れた厚生労働省の14の事項には、身元調査も入っています。

労働条件通知書に、業務と就業場所の「変更の範囲」を書く

2024年4月から、労働契約を結ぶときに明示する労働条件に、就業場所と業務の「変更の範囲」が加わりました(労働基準法施行規則第5条)。求人票や募集要項でも、業務の内容と就業場所、それぞれの変更の範囲を示すことになっています(職業安定法施行規則第4条の2)。

キーマン採用では、営業部長として採り、1年後には事業部全体を任せたい、というように、入社後に役割が広がる前提のことがあります。その見込みがあるなら、変更の範囲に書いておきます。書かずに採って1年後に役割を変えようとすると、本人には聞いていない話として届きます。1枚の2(1年後の成果)と3(任せる決裁の範囲)は、変更の範囲を考える手がかりになります。求人票の段階で示すものなので、内定の前に考え始めるのでは遅く、1枚を書く2週間のうちに決めておきます。ただ、変更の範囲は契約期間中の配置転換の見込みまで含めて書くものなので、1年後の役割だけに絞って狭く書かないようにします。

試用期間を、見極めの期間として当てにしない

「試用期間で合わなければ、そこで判断すればいい」と考えて、選考を軽くする会社もあります。ただ、試用期間中だからといって、会社が自由に雇用を終えられるわけではありません。

最高裁は1973年の三菱樹脂事件の判決で、試用期間中に会社が留保した解約権は、通常の解雇より広く認められるとしつつ、留保の趣旨と目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められる場合に限るとしました。判決はこれを、採用決定後の調査や試用中の勤務状態から、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知り、雇い続けるのが適当でないと判断することが客観的に相当な場合、とも言い換えています。事案は、大学卒業と同時に管理職要員として3か月の試用期間付きで採用された新卒者のもので、中途採用の事案ではありません。

この言い換えを裏から読むと、選考の段階で確かめられたはずのことは、試用期間の判断の理由として通りにくいことになります。個別の事情で判断は変わるので、実際の対応は弁護士や社会保険労務士に相談する必要がありますが、見極めは内定の前に終わらせておくものと考えるのが安全です。試用期間は見極めをやり直す期間としては当てにせず、90日の仕事を本人と進めながら、仕事の進み具合と会社の側の準備の両方を記録しておく期間として使います。

第5章 キーマン採用で順序を間違えると起きる4つのこと

紹介会社に条件だけを渡し、他社と同じ要件で探す

紹介会社に「同業界での経験、マネジメント経験10年以上」と伝えても、それは同じポジションを探すほかの会社もまず書く条件です。候補者はほかの会社と同じ基準で並べられ、比べられる軸が経歴と年収だけになって、条件のよいほうへ流れやすくなります。紹介会社に渡すのは条件の一覧ではなく、成果の定義書そのものです。取引先名や金額のように社外に出せない箇所だけは伏せます。90日で何を終わらせてほしいかが書いてあれば、担当者も経歴の見栄えではなく、その仕事に近い経験を持つ人を探せます。

社長面接を最初に置いて、残りの選考が追認になる

社長が最初に会って「この人はいい」と言えば、そのあとの面接官は落としにくくなり、残りの選考は追認の手続きになりがちです。社長面接は最後に置き、確かめるのは、1年後の成果と任せる決裁について本人と社長の認識が一致しているかに絞ります。その場で、社外に出せない箇所を伏せた1枚を本人にも見せ、4の報告先や評価する人、6の入社日までの準備まで伝えておきます。応募を決める前に社長と話したいという候補者もいます。その場合は点を付けない顔合わせとして別に設け、社長は会社の方針と任せたい仕事を説明する側に回ります。顔合わせの印象は、ほかの面接官に伝えないと決めておきます。

年収を経歴に合わせて決め、既存の幹部と逆転する

経歴の立派な候補者ほど、前職の年収に合わせて条件を上げたくなります。そうして決めた年収が、社内で同じ重さの役割を担ってきた幹部を上回ると、既存の幹部は評価の仕組みそのものを疑い始めることがあります。年収の幅は、候補者に会う前に、1枚の2(1年後の成果)と社内の等級から決めておきます。経歴を理由に幅を超えるなら、その理由を書いて残します。評価の仕組みが回っていない会社で何が起きるかは、評価制度が運用されないのは担当者のせいではない——運用を止める3つの構造で整理しています。

入社初日に「あとは任せた」と言う

定義書の6、つまり会社が用意するものを決めないまま採ると、入社初日に渡せるものがありません。数字を見せる、取引先に紹介する、といった準備がないまま「あとは任せた」と伝えると、本人は情報を集めるところから始めることになり、最初の90日はそれで終わってしまいかねません。4と6まで募集の前に書いておくのは、この初日のためです。

第6章 キーマン採用の決め方——誰が1枚を書き、いつ募集を始め、何で振り返るか

1枚の下書きは、そのキーマンと仕事を受け渡す人が書く

定義書を社長が一人で書くと、「自分のように動ける人」の要件になりがちです。社長と同じ動き方をする人がもう一人来ても、社長と同じところでつまずきやすくなります。下書きは、採った人と仕事の受け渡しが多くなる現場の責任者が書きます。部長を採るなら、隣の部門の部長です。社長はそれを読み、2の1年後の成果と、3の任せる決裁を書き入れ、ほかの項目は削るか直すだけにします。

そうした人が社内にいない会社もあります。たとえば、社長の下に部長が一人もいないまま、最初の部長を採る場合です。そのときは社長が下書きを書き、採った人の部下になる社員に読んでもらいます。「この人が来たら、最初の週に何を相談したいか」を聞くと、90日の仕事の抜けが見つかります。この場合は一次面接から社長が出ることになるので、一次面接と課題には、経理や総務をまとめている社員など社内のもう一人にも加わってもらい、それぞれが点を先に出してから話し合います。

1枚に2週間、質問と物差しに1週間をとってから募集する

募集や紹介会社への依頼は、1枚と採点の物差しができてから始めます。合わせて3週間ほどです。急いでいる会社ほどこの3週間を惜しみますが、要件が固まらないまま始めた選考は、候補者が来るたびに要件を作り直すことになり、その作り直しの分だけ、3週間を惜しんだ意味が薄れます。

入社90日後に1枚と照らし、次の選考の質問を直す

入社して90日たったら、1枚の1に書いた仕事がどこまで終わったかを、本人と一緒に振り返ります。終わっていない仕事があれば、その理由が本人の側にあるのか、6の会社の準備の側にあるのかを分けます。

もう一つ、選考のときに付けた点数と、90日の結果を並べてみます。高い点が付いた質問の答えは、実際の仕事ぶりと合っていたか。合っていなかった質問は、次にキーマンを採るときに入れ替えます。キーマンの採用は回数が少ないぶん、1回ごとの記録を残しておかないと、次も同じところで外しやすくなります。

1枚と選考を、誰と作るか

1枚を書き、選考を組む作業の進め方には、3つの道があります。

まず、社内で1枚と質問を作る道があります。費用はかかりませんが、現場にキーマンを採った経験がないと、質問と物差しを作る段階で行き詰まりやすくなります。

1枚と質問だけを外の目に読んでもらう道もあります。社内の事情の外にいる人が読むと、社長が当然だと思っている前提、つまり5の「自社にないもの」に書くべきことが見つかります。選考は社内で行うので、費用は限られます。

3つめは、先に外部の右腕に90日の仕事を回してもらい、その経験から1枚を書いて採る道です。費用はこれが最もかかります。加えて、右腕が回した仕事のやり方を1枚に書き残さないまま採用に進むと、採った人はそのやり方を口頭で聞くことになり、第5章の「あとは任せた」と同じところから始まります。分析や助言で終わる支援と、実行して引き継ぐ支援の違いは、伴走支援と従来型コンサルは何が違うのか——「提案止まり」で終わらせない、外部パートナーの見極め方で整理しています。

meherは、採用の進め方を一緒に組む形でも、外部の右腕として先に仕事を回す形でも入ります。これまでにご一緒した支援は全体で100件以上あり、着手は最短1週間からです。それでも、社内で1枚が書けて質問まで作れるなら、外に頼む必要はありません。社内で作った1枚と質問は、次にキーマンを採るときもそのまま使えます。

まとめ

キーマン採用で「思っていたのと違う」というミスマッチが起きるのは、面接で見抜けなかったからというより、照らし合わせる仕事が書かれないまま選考が進んだからです。

候補者に会う前に6項目の1枚を書き、業務と就業場所の変更の範囲もこのとき決めて求人票に載せます。その1枚から質問と採点の物差しを作ります。選考では全員に同じ質問をして各自が先に採点し、課題で進め方を見て、リファレンスは同意を得て事実だけを聞きます。社長面接は最後に置き、見極めは内定の前に終わらせ、入社90日後には1枚と照らして次の質問を直します。

ここまでの順序は、「ハマる人材」かどうかの判断を、社長の勘から1枚との突き合わせに移すためのものです。いま採ろうとしているポジションがあるなら、求人票の前に、その人の90日の仕事を3つ書いてみると、採用に進める段階かどうかが分かります。書ければそこから質問と採点の物差しを作れ、書けなければ、採用より先に決めることが残っています。


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