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営業の属人化は、商談に同席すれば解ける——売り方を型にして90日で引き渡す順序

営業の属人化は、商談に同席すれば解ける——売り方を型にして90日で引き渡す順序

月末の数字を並べると、受注はいつも同じ2人と社長に偏っています。ほかのメンバーも同じ商品を同じ資料で売っているのに、そちらの数字は動きません。去年は営業研修を入れ、SFA(営業支援ツール)も導入しました。1年たって残ったのは、誰も入力しなくなった画面と、変わらない偏りです。

こういう会社で足りていないのは、営業の教育でも道具でもないのかもしれません。何が属人化しているのかを、経営が一度も自分の目で見ていません。そこが手つかずのままだと、打ち手はどれも空振りします。

営業組織の設計全体は営業改革とは?中堅企業の営業組織の作り方で扱っています。ここで書くのは、属人化がなぜ研修とツールで戻らないのか、そして商談に同席するところから何を始めるか、という一点です。

第1章 「売れる人」が決まっている会社で起きていること

社長が出てくると決まる

中堅・中小企業の営業でよく見かける属人化は、トップ営業への依存というより、社長への依存です。担当者が何度通っても動かなかった案件が、社長が同席した一回で決まります。社内ではそれを社長の営業力と呼びます。ただ中身を見ると、その場で社長が値引きや納期の特例を出していることが珍しくありません。決めているのは営業の力ではなく、決裁権が商談の場に来たという事実のほうではないでしょうか。

この形は、上位の担当者が抜けるより厄介です。社長の時間が営業に固定され、経営の判断に使える時間が削られ続けます。しかも本人は、なかなか自覚できません。自分が出れば決まる、という成功体験が毎回積み上がるので、依存が深まっているようには見えません。

研修とツールを入れても、受注の偏りが変わらない

もう一つよくあるのが、打ち手は打ったのに偏りが変わらない、という経験です。研修の直後は商談の進め方が揃います。数か月もすると各自のやり方に戻ります。SFAも導入時は全員が入力しますが、半年ほどたつと「訪問した」「検討中」の一行が並ぶだけになり、売れている担当者ほど入力が薄くなります。

これは失敗というより、効く範囲が最初から限られていたと見たほうが正確だと思います。研修が教えるのは営業一般のスキルで、自社の顧客に固有の判断ではありません。SFAが記録するのは商談の結果で、その結果に至った判断ではありません。属人化しているのは判断なので、どちらも本体には届かないわけです。

第2章 自社の属人化を数える

受注の偏りではなく、記録の薄さを見る

属人化の度合いは、受注の偏りだけでは測れません。上位の担当者に受注が集まること自体は、健全な組織でも起こります。見るべきは、その受注がどうやって取れたのかを、本人以外の誰かが説明できるかどうかです。次のうち、いくつ当てはまるでしょうか。

  • 受注額の半分以上を、社長を含む上位2名が持っている
  • 商談の記録が「訪問」「提案済み」「検討中」といった状態の一語で、顧客が何を判断基準にしているかが書かれていない
  • 失注理由の集計が「価格」と「時期」の2つにほぼ収まっている
  • 提案書と見積の書式が、担当者ごとに違う
  • 担当者の退職や異動のあと、1年以内に取引が細った顧客がある
  • 社長が同席した商談だけ、受注率が目に見えて高い
  • 新人が独り立ちするまでの期間が決まっておらず、先輩について覚える以外の育て方がない

目安ですが、3つ当てはまるなら、売り方は個人の中に閉じています。5つなら、担当者が一人抜けたときに、売上と一緒に顧客も失う状態だと考えたほうがよさそうです。

失注理由が2種類しかない意味

上のリストで見落とされやすいのが、失注理由の項目です。失注が価格と時期に集約されている会社は、営業が原因を知らないというより、原因を聞ける関係を顧客と築けていないか、聞いた内容を残す場所がないかのどちらかです。価格で負けたと報告された案件をあとから顧客に確かめると、決裁者に届く前に担当者レベルで止まっていた、要件がそもそも合っていなかった、という答えが返ってくることがあります。分類がないままだと、値下げという見当違いの対策に予算が流れます。

第3章 研修とツールでは戻らない3つの構造

構造1 売り方が、商談の中にしか存在しない

売れる営業担当者が何をしているかは、本人にもうまく説明できません。どの順番で何を聞き、顧客のどの一言で提案に切り替え、価格の話をどこで出してどこで引くのかといった判断は、商談の流れの中で瞬間的に行われています。あとから理由を聞いても、勘としか答えようがないことが多いようです。マニュアル化が進まないのは、書く意欲がないからではなく、書く材料が本人の中に言葉として存在しないからです。

SFAに残るのは、その判断の結果である受注か失注かに限られます。研修が教える汎用のスキルも、自社固有の判断には届きません。売り方が商談の場にしか存在しないなら、取り出せる場所も商談の場しかない、ということになります。

構造2 顧客が、会社ではなく人と付き合っている

二つめは関係の属人化です。顧客側の担当者は商品を買っているつもりで、実際にはその営業担当者を買っています。トラブルのときに電話一本で動いてくれる、社内の決裁の通し方を一緒に考えてくれる、そういう積み重ねが担当者個人への信頼になり、会社への信頼にはなっていません。担当者が辞めると顧客が消えるのはこのためで、引き継ぎ資料をどれだけ丁寧に作っても、関係は書類では移らないものです。顧客が会社と付き合っていると感じる接点を、意図して作るしかありません。

構造3 経営が、営業を結果でしか見ていない

三つめは、いちばん見落とされている構造だと感じます。多くの経営者は、営業の中身を見たことがありません。手元に届くのは受注額と件数、それに担当者による口頭の報告です。報告は自己申告なので、本人が気づいていない判断は含まれません。経営には、営業が実際に何をしているかの一次情報が届いていないのです。だから何が属人化しているのかを特定できず、研修とツールという一般解に流れます。

前の二つは営業の問題ですが、これは経営の問題です。そしてここが解けないうちは、前の二つにも手が付きません。

3つの構造に同時に触れるのは、同席だけ

研修は一つめの一部に、SFAは一つめの記録の側面に、顧客の複数担当制は二つめに、それぞれ部分的にしか効きません。商談への同席は、三つ全部に触れます。判断が行われる現場を見るので、売り方を取り出せます。担当者以外の人間が顧客の前に立つので、会社と付き合う接点になります。営業ラインの外の人間が見るので、経営に一次情報が届きます。同席を営業のテクニックではなく経営の手段だと言うのは、こういう意味です。

第4章 同席は、観測して型に落として引き渡す

社長が同席すると、属人化の頂点が社長に移る

同席と聞いて、社長が自ら出向くことを思い浮かべたなら、一つ注意があります。社長の同席は商談を決めますが、属人化は解きません。社長が出た商談で決まるのは決裁権がその場に来たからで、同席を増やすほど、社長が出れば決まるという学習が顧客の側に進みます。担当者は社長を呼ぶ営業になります。属人化の頂点が担当者から社長に移るだけ、という結果になりかねません。

社長が同席するなら、その場で決めないというルールが要ります。値引きも特例も出さず、発言は終盤の確認にとどめ、判断は持ち帰ります。それが守れそうにないなら、同席者は社長以外に置いたほうが安全です。

誰が、何件、どの商談に同席するか

同席者は営業ラインの外に置きます。経営企画や管理部門の担当者、営業を持たない役員、あるいは外部の人間です。営業マネージャーが同席すると、評価者が見ている商談になって、担当者は普段と違う動きをします。それでは観測になりません。

件数の目安は、90日で20〜30件と考えています。ただ、数を積めばよいわけではなく、組み合わせが大事です。上位の担当者とそれ以外の両方、受注した案件と失注した案件の両方、初回訪問・提案・条件交渉の各段階を、それぞれ含めます。上位の担当者の商談だけを見ても、何が違うのかは分かりません。差は比較からしか出てきません。

顧客への説明は、営業体制の強化を担当している者、で足ります。隠す必要はありません。むしろ、複数の人間が顧客の前に立つこと自体が、会社と付き合ってもらうための最初の一手になります。

同席ログは、状態ではなく判断を書く

同席で残す記録は、SFAの入力とはまったく別物です。次の5項目を、商談ごとに1枚にまとめます。

  1. 顧客が最初に口にした課題。できるだけ原文のまま残す
  2. 担当者が投げた質問と、その順番
  3. 提案に切り替えた瞬間と、きっかけになった顧客の発言
  4. 価格や条件の話が出た場面と、担当者がどこで引いたか、あるいは引かなかったか
  5. 次回に向けて交わした約束。誰が、いつまでに、何をするか

たとえば、顧客が冒頭で特に困っていないと言い、担当者の三つめの質問でようやく更新時期の話が出た、といった流れがそのまま残ります。地味に見えますが、20件も並べると差が浮かびます。上位の担当者は質問の順番がある程度決まっていて、提案に切り替えるきっかけも似た種類の発言で判断している傾向が出ます。それ以外の担当者は、質問が商品説明の前置きになりがちで、切り替えのきっかけを顧客の沈黙や時間切れに委ねています。本人たちはこの差を自覚していませんし、SFAのどこにも記録されていません。

差が出ている段階を特定してから、型に落とす

ログが揃ったら、受注率を担当者別に見るのをやめて、段階別に見ます。初回訪問から提案に進む率と、提案から受注に至る率を、上位とそれ以外で比べます。初回から提案に進む率に差があるなら、属人化しているのは質問と課題の掴み方です。提案から受注に至る率に差があるなら、価格の出し方か関係のどちらかでしょう。どちらに差があるかで、作る型が変わります。研修とツールが効かなかったのは、この特定をせずに打ち手を選んでいたからでもあります。

型として文書にするのは4つです。順番つきの質問リストと、提案に切り替える条件、誰がどこまでの値引きを決めてよいかという価格の線引き、そして失注理由の分類表です。分類表は少なくとも、価格、時期、決裁が通らなかった、要件が合わなかった、競合に負けた、の5つに分けます。価格と書くときは顧客の発言を添える、と決めておくと、値下げに逃げる報告が減ります。

SFAの項目を作り直すのは、このあとです。型が先にあれば、入力すべき項目は型から決まります。ツールが定着しなかったのは現場の怠慢ではなく、型がないまま項目を決めていたからではないでしょうか。仕組みを先に入れて中身が追いつかない構造は、PMOが形骸化するのは担当者のせいではないで書いたものと同じです。

90日で抜ける前提で始める

同席は続けるものではありません。同席者がいないと回らない状態は、属人化の形が変わっただけです。90日を区切りに型を営業マネージャーへ引き渡し、以後は新人が上位の担当者に同席する側に回ります。型のオーナーは営業マネージャーで、四半期ごとに失注分類の集計を見て、質問リストと切り替え条件を更新します。ここまでを最初の設計に含めておきます。

第5章 属人化を放置した先にあるもの

一人の退職で、顧客ごと売上が消える

放置した属人化は、退職と同時に顧客が消える形で表に出ます。退職の連絡を受けてから引き継ぎ資料を作っても、売り方も関係も書類には載りません。残るのは顧客名簿と過去の見積で、なぜその顧客が買っていたのかは、辞めた人と一緒に会社を出ていきます。

この手当てがどれだけ手つかずかは、公的な調査にも表れています。2026年版の小規模企業白書は、小規模事業者に、業務上のノウハウが特定の従業員に依存しないよう組織として蓄積・共有に取り組んでいるかを聞いています。従業員のいる事業者7,424者のうち、取り組んでいると答えたのは48.8%で、51.2%は取り組んでいませんでした。小規模事業者の調査なので、営業組織を持つ規模の会社にそのまま当てはめることはできません。それでも、ノウハウが人に依存しないための手当てが半数で手つかずだという事実は、規模が変わっても構造は同じである以上、無視できない数字です。取り組んでいる側で有効だったとされる取組の上位も、マニュアルや手順書の整備、社員同士の交流機会、社内の勉強会や研修でした。どれも記録の側面に近く、商談の中の判断まで届いているかは、この調査からは分かりません。

社長が、営業から抜けられなくなる

社長依存の形で放置すると、社長の時間は営業に固定され続けます。幹部を採っても経営が動かない構造の一つに、情報が社長にしか集まらないというものがあることは、幹部を採っても経営は動かないで書きました。営業の属人化が社長に集中している会社は、その構造を営業の側から毎日強化しているようなものです。右腕を採ろうとしても、顧客が社長としか話さない状態では、幹部に渡せる判断が営業の中にありません。

売れる人が、組織の人質になる

上位の担当者への依存が深まると、その人の評価と報酬は上げざるを得ず、その人が反対する制度は通らなくなります。評価制度を作っても運用が止まる構造は評価制度が運用されないのは担当者のせいではないで扱いましたが、営業の属人化はその止まり方の典型です。売れる人を評価で縛れないのは、その人が抜けたときの損失を経営が見積もれないからです。新人は型がないので育つ前に辞め、採用費が積み上がります。

第6章 立て直しの3つの道——どこまで自社でやるか

道は3つあります。どれが優れているかではなく、社内に同席できる人がいるかどうかと、属人化の段階で選ぶものです。

見るところ

社内で同席者を立てる

研修・ツール・営業代行を部分的に入れる

外部チームが同席し、型を作って引き渡す

前提となる状態

営業ラインの外に、90日で20〜30件の商談に出られる人がいる

属人化の中身が特定できていて、足りないものがスキルか道具かに絞れている

同席できる人が社内におらず、経営も営業の中身を見たことがない

効く構造

3つすべて。ただし同席者の観察力に左右される

研修は売り方の一部、ツールは記録。営業代行は受注は作るが構造には触れない

3つすべて。型の文書化まで含む

費用の性質

同席者の稼働。人件費の付け替えで済むが、その人の本業が止まる

研修費・ツールの利用料・代行の成果報酬。単発で見積もりやすい

月額の稼働費。期間を区切れば総額は固定できる

時間軸

90日で観測、その後の型化に1〜2か月

研修は数日、ツールは導入に数か月

90日で型と引き渡しまで

向かない状態

同席者が営業評価に関わっている。社長しか候補がいない

何が属人化しているか分からないまま選んでいる

型を受け取る営業マネージャーが社内にいない

社内で同席者を立てる

最初に検討するのはここです。経営企画や管理部門に、90日間で20〜30件の商談に出られる人がいるなら、外部は要りません。同席ログの5項目と型の4文書があれば、観測と文書化は社内で進められます。難しいのは人の確保より、同席者が営業評価に関わらない立場を保てるかどうかだと思います。

研修・ツール・営業代行を部分的に入れる

属人化の中身が特定できたあとなら、部分投入は効きます。質問の掴み方に差があると分かっていれば、そこに絞った研修は無駄になりません。型が先にあれば、ツールも定着します。順序が逆になると、同じ経験を繰り返すことになります。

営業代行については、別の注意が要ります。代行は受注を作りますが、売り方は代行会社の中に残ったままです。契約が終わると受注も止まり、手元に残るのは、属人化が社外へ移ったという状態です。受注を急ぐ局面では選択肢になりますが、属人化の解決策として選ぶものではないでしょう。

外部チームが同席し、型を作って引き渡す

社内に同席者を置けず、経営も営業の中身を見たことがないなら、外部を入れる意味があります。ただし外部に求めるのは、売ることではなく、観測して型に落として引き渡すことです。この線引きを契約前に決めておかないと、外部が売る営業代行に変わります。

第7章 外部を入れる場合に決めておく条件

外部を選ぶなら、契約前に固めておきたいことが5つあります。

まず、同席の件数と期間です。月に何件、どの段階の商談に、どの担当者の組み合わせで入るかを書面にします。件数が書かれていない提案は、いつのまにか週1回の定例会議と報告書に置き換わります。

次に、成果物の定義です。成果物は報告書ではなく、質問リスト・切り替え条件・価格の線引き・失注分類表の4文書です。診断レポートを納品物にしている提案は、観測のあとの型化を社内に残す設計かもしれません。

型のオーナーも、契約前に社内で決めておきます。引き渡す先は営業マネージャーです。受け取る人が決まっていない型は、外部が抜けた翌月から更新されなくなります。

外部が受注を代行しないことも、条件に入れます。同席者が商談を決め始めると、顧客は外部の人間と付き合うようになり、関係の属人化が社外に移ります。決めるのは担当者で、外部は観測と設計に徹します。この線を提案の中で確認します。

最後に、引き渡し後の関わり方です。四半期に1回、失注分類の集計と型の更新を一緒に見る程度の軽い関与を残しておくと、型が形骸化する前に手が打てます。常駐を続ける提案は、属人化を外部に移す提案でもあります。

meherは外部チームとして事業推進の実務に入り、営業の立て直しでは商談に同席し、売り方を型に落として社内に引き渡すところまでを一緒に動かしています。これまでにご一緒した支援は100件を超え、即時に参画できる人材を1,500名ほど抱えているため、着手は最短1週間からです。外部の関わり方をどう選ぶかは伴走支援と従来型コンサルは何が違うのかで整理しています。

まとめ——属人化は、見に行けば解ける

営業の属人化が研修とツールで戻らないのは、売り方が商談の中にしか存在せず、顧客が会社ではなく人と付き合っていて、経営が営業を結果でしか見ていないからです。三つに同時に触れる手段は、商談への同席しかありません。

順序を短く置いておきます。まずシグナルで自社の属人化を数えます。同席者は営業ラインの外に置き、社長が入るならその場で決めないと約束します。90日で20〜30件、上位とそれ以外、受注と失注、各段階を組み合わせて同席し、状態ではなく判断を5項目で残しておきます。差が出ている段階を見極めてから、質問リスト・切り替え条件・価格の線引き・失注分類の4つを型にします。SFAの項目はそのあとで作り直し、型は営業マネージャーに引き渡して、同席者は抜けます。

社内で同席者を立てられるなら、それが最初の一手です。立てられないなら、外部を入れる前に、外部に何を求めるかを5つの条件で固めてください。営業を見に行く人が社内にいない、という状態そのものが、外の目を入れる理由になるのだと思います。

出典


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